Yoko Okuyama



プロフィール

 札幌に育ち北海道大学工学部建築学科卒業

丹下健三のもとで、東京カテドラル、聖心大学などのプロジェクトに参加。その後創成社建築設計事務所を主宰、住まいと住環境をテーマに、住宅、集合住宅の設計、住宅地計画などを行う。

2000年よりイタリア北部の都市ヴェローナ在住。

建築を通じて培ったアートへの素地と憧憬により、イタリアにて楮(和紙の原料)を素材とした独自の手法による作品制作を始めた。

独特の風合いの作品は批評家や愛好家の支持を得て、イタリア内外で個展や展示の機会を得ている。

アート制作と平行して作品のデジタル画像を布に印刷。ファッションやインテリアの分野に展開。ファッションショーやインテリアのインスタレーションなどを開催している。


作品について

MA ”間”

アートの素材として、日本古来の和紙の原料こうぞ(楮)を選沢。

よって作品は和紙になるが、製法、表現ともにいわゆる和紙とはかなり異なる。

素材とともに作品の特徴としてMA ”間”が指摘される。

”間”は空間的、時間的な空白であるが、空白=無ではない、という東洋的コンセプトを含んでいる。

筆を使わず、水の流れがフォルムを決めるため、ある一瞬の間合いで流れを断ち切ることにより作品は完成する。

それらはこうぞ独特の繊維の長さの効用で、薄く、はかなく、ミクロの世界に導かれ、無数の不定形の空白に満ちている。

初めてこのテクニックで制作してみたとき、それまでに見たことがないものが出来あがった。額に入れ壁に飾ったところ、見た人たちが、ぜひ展覧会をしたらと勧めるので、キリコの個展も行ったという由緒ある画廊で初個展をすることになった。それ以来、未だ見たことのないものを創りだすという挑戦をつづけている。


批評

哲学者K.R.POPPER の定義によると、「科学とは終わりのないゲーム」であるが、奥山陽子にとってのアートも、まさしくそれと同じように定義されるであろう。

奥山陽子は新しい表現手法を生み出した。それは水が織りなす多彩な形態~彼女いわく「絵筆を用いない絵」~をベースとした独自なものであり、あまたの既存の絵画的または美術的制約から解き放たれ、彼女の新たな作品群の創造の源となった。その表現手法の限りない可能性は、作者自身さえ驚かせ、日々新たな試みに満ちた作品の制作に没頭させている。

奥山陽子の作品は繊細かつ控えめで、女性的であり、空間的に疎な中に何か東洋的なくつろぎを感じさせる。 色彩は語り合い、譲り合い、せめぎあいながら染み拡がり、時にはモノクロームのグラデーションに落ち着く。

全ての工程で羽の先ほどもタッチすることなく、まるで魔法のように、最も普遍的な液体であるところの”水”の作用で、マテリアルはアートに変貌する。基本的には、和紙の原料”こうぞ”と、ふるいとして用いる細かい網を張ったフレームといった、日本の伝統的で職人的な器具を用いている。 前身は建築家という、このアーティストは、満ち溢れる創造力と、ヨーロッパで培った刺激とその文化に対する洞察力で、日本文化との新しい統合体を構築した。

これらの作品には”間”(日本人の生活や人生における基本的なコンセプト)を重んじる精神が、絶妙に表現されている。

間とは空白であり空間、空隙であり、また流れ去る時間の一断面でもある。奥山陽子は無作為に、水がマテリアルの綿毛のような触手でフォルムを形成する機会を逃さず、時間の経過の中で最も美しい瞬間をとらえて、作品中に永遠に閉じ込める。いったん写しだされた形は、もう二度と元には戻らない。

創作意図と、水によって為すすべもなく流れさってしまう自然現象との間の葛藤は、アーティストの宿命であり、ギリシャの哲学者エラクリトの法則<全て流れ去る>が、これほど当てはまるものはない。

奥山陽子の挑戦は二次元だけに留まらず、すべての起源とも呼べる卵型のフォルムに代表される三次元のオブジェの分野にも及ぶ。また最近の傾向として、抽象的でかつ繊細なレース状のラインを織り込んだ作品は、シンボリックで暗示的であり、直接筆で描写するよりも何と魅惑的で想像力をかき立てられることであろうか。

エリザベッタ・ボーヴォ Elizabetta Bovo 著

美術評論家、ジャーナリスト、イコノロジー解釈学教授



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Copyright 2023 Yoko Okuyama